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2011年5月の法語 [月々の法語]

至徳の風 静かに 衆禍の波 転ず

The winds of perfect virtue of Amida blow softly and the waves of evil are transformed.

『教行証文類より』


 今年のカレンダーの言葉は、親鸞聖人の主著である『教行証文類(教行信証)』から抜粋されています。

 今月の言葉の前後部分は「しかれば大悲の願船に乗じて光明の広海に浮かびぬれば、至徳の風静かに、衆禍の波転ず。すなわち無明の闇を破し、すみやかに無量光明土に到りて大般涅槃を証す、普賢の特に遵うなり、知るべしと。」となっています。


 現代語訳をすると「本願の大いなる慈悲の船に乗り、念仏の衆生を摂め取る光明の大海に浮かぶと、この上ない功徳の風が静かに吹き、すべてのわざわいの波は転じて治まる。すなわち、迷いの闇を破って、はかり知ることのできない光明の世界に速やかに至って、仏のさとりを開き、衆生を救うはたらきをさせていただけるのである。よく知るが良い。(顕浄土真実教行証文類・現代語版 本願寺出版)」となります。



 今月の言葉で大切なのは「転ず」という部分です。英訳文だと「 transformed」と書かれています。トランスフォームとは「形や状態を変える」という意味です。「変える」の英語は「change(チェンジ)」の方が一般的ですが、少しニュアンスが違うようです。


 少し脱線しますが、調べてみると「トランス」には「横切る・超越する」という意味があるそうです。ここで閃いたのは「勧衆偈」という偈文の「横超断四流」という一文です。仏教の分類の一つに「竪・横、出・超」というものがあり、 竪は自力、横は他力。また出は時間をかける事、超はすぐにという事です。 それぞれ組み合わせて4通りになり、浄土真宗は「横超」であるとされます。つまり阿弥陀仏の力によって、迷いの世界を横っ飛びに飛び越えて、すぐに悟りに到る、という事です。



 さて、話を戻しますと今月の言葉は「阿弥陀仏の徳の風に吹かれて、悩み苦しみが転じてしまう」という意味になります。

 先日、都内のお寺で法事をしておりました。出席者は7名ほど。おばあさんが施主で、夫の父、つまり舅の年回法要でした。おばあさんのご主人はすでに亡くなっているようで、子ども世代とお孫さんを集めての法要でした。


 読経・法話が終わり、お墓参りのために皆さん本堂を出ていったのですが、すぐにおばあさんだけが戻ってきたのです。そして私に「お舅さんは優しくしてくれて良い人だったが、姑は非常に意地悪だった。今でも許す事ができないし、数年後には姑の年忌法要があるが、勤めたくない。でも、許してあげなきゃいけないですよね。」とおっしゃるのです。


 嫁・姑の対立というのはよくお聞きする話ですが、本当につらい思い出だったのでしょう、絞り出すように私に尋ねられるのです。お聞きしていた私は「許せないんだったら、許さなくていいんじゃないですか」とお応えしました。


 おばあさんは一瞬驚いた顔をして、「許さなくてもいいんですか」と尋ねられました。私は「だって、許してあげなさいと言っても許せないんでしょう。私が『許してあげなさい』と言って許せるのだったら、そうした方が良いですが、無理だったら仕方ないじゃないですか」と言いました。


 そしてさらに「阿弥陀さんは、恨みを持ったままの人でも、恨まれたまま亡くなった人でも、全ての人を救って浄土に連れていって下さるのです。だから、ご主人とも優しいお舅さんとも浄土で再会しますし、意地悪だったお姑さんとも浄土で再会します。でも、お浄土ではお互いに仏さまとなって再会するのですから、この世で憎しみ合ったらつらい思いをした事も、お互い謝り合い許し合える間柄になりますから、心配いらないんですよ」とお伝えしました。


 おばあさんの驚きの表情は、喜びの表情へと変わっていき、探しに来たお嫁さんに連れられてお墓参りに行きました。憎い相手を許さなくてはならない、という苦しみが、憎いままで良いと聞いて、苦しみで無くなったのではないでしょうか。


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悟道

御法事でのエピソード、いい話ですね。
浦上さんはこうしたご縁によく恵まれますね。それは浦上さんの姿勢や心もちに、出会った方々が胸の内を開いて下さるのでしょう。私自身の御法事への取り組みにまだまだ真剣味が足らないのだと戒められます。

by 悟道 (2011-05-21 21:57) 

ボーズandカナコ

>悟道さん
いえいえ、たまたま雲に恵まれて、考えさせて頂く機会を頂いているだけだと思います。
悟道さんの仏法に真剣に取り組む姿勢には、いつも頭が下がる思いを抱いております m(_ _)m
by ボーズandカナコ (2011-05-22 08:03) 

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